年に似合わず、数十年ぶりに人に抱きついて泣いた。のにおいは、40年前のそれと全く同じであった。クロロの手が彼女の白髪にそっと触れる。本当に魔法がかかったみたいに、止まっていた時間が動き出したみたいに、とクロロはあの時のままだった。「会いたかった!会いたかった!」「ごめんね、ごめんね」
周囲の目など気にもせず二人は咽び泣いた。何で、何であなたたちはあのときのままなの?どうして私を一緒に連れて行ってくれなかったの?攫ってくれなかったの?私は、本当は、とクロロと一緒に永遠の時間を生きる方がよかった。あなたたちと同じように、人間でなくなればよかった。
パパとママは人間ではないことなんて、幼心ながらに知っていた。だって年を全くとらないんですもの。でも、幼い私はそれを受け入れられていたの。引っ越しをし続ける理由はご近所に怪しまれないように、なんて何となくだけれど知っていたの。追及をしなかったのは、あなたたちを受け入れていたからなの。でも何で私を置いて行ったの?あんまりじゃない。どうして私の実家なんかを探し出してそこに帰したの?私が邪魔だったの?愛してくれていたのに、何で置いて行ったの?

語りたいこと・聞きたいことがたくさんあった。しかしそれにも関らず二人は、リドルが一瞬目をそらした隙をついて、再び煙のようにリドルの目の前から姿を消したのだった。

それが、彼らの今生の別れだった。




*




「どうしたんだ、いきなり飛び出して喚いたりして?」
「昔の知り合いに会ったんですよ」
「あんなに泣き叫んだりして・・そんなに会えたことが嬉しかったのかね?」
「ええ、ええ、夢にまで見ました。いや、もしかしたら今さっき会えたこの瞬間もまた、夢なのかもしれませんね」



私はね、木の上に巣を作る小鳥に育てられたんです。




*




「リドル、大きくなってたね」
「そうだな。まさか、まだここに住んでいるとは思わなかった」
「クロロは何か言わなくてよかったの?」
「何か語りだしたら、きっと止まらなくなってただろうからな」
「そっか。懐かしかったなあーもう何十年前になるんだろ?」
「4、50年前じゃないか?普通の人間にとってはすごく、すごく長い時間だな」
「こうも長く生きてると失うものがたくさん出てくるね。友人だと思ってたひとも次々と死んでいく」
、子供を育てるのはあれっきりにした方がいいぞ」
「うん」
「もうあいつも歳だ。そもそも拾った時から俺達より先に死ぬのはわかってたことだろう?」
「うん・・・いざ見たらびっくりしちゃった。もうおばあちゃんになっちゃったんだなあって」
「そうだな」
「リドルもきっとこの先そう遠く未来に死んじゃうんだね」
「そうだな」
「あの10年、すっごく幸せで楽しかったね」
「そうだな」
「またあの時間に戻りたいなあ・・・」
「泣くんじゃないぞ。目立つから」
「んもう、相変わらず冷たいなあ」
「せめて家に着くまで我慢していろ」
「うん」

「私、またあの頃に戻りたいなあ・・・」
それくらい愛しい日々だった。でももうリドルに会うことはもうきっと無いだろう。もう、彼女は違う世界に生きているのだから。会ってしまっては、別れが辛くなってしまうから。


それならばずっと夢の幻のままで、
彼女が死ぬまで心の中に棲んでいられればそれでいい。



苦しむこと/喜ぶこと/泣くこと/笑うこと/



生きること//それが私に教えてくれたこと






END

萩尾望都のポーの一族パロ。二人は不老不死でした。
ラスト//last//終わるものでもあるし、永遠に続くものでもある。