シェリー、今日も私は貴女に日記を書こうと思います。数日感覚が空いていたのは、少し大きな仕事をやっていたからで、それは遠征とも言うべき少しきつい仕事だったから、きっと仕方の無い事なんです。やはりどんなに離れていても、貴女には毎日の出来事を伝えなければ気が済みません。今日の(正確には昨日の)出来事を聞いてください。今日は私の旅団に入って丁度三年目の日でした。しかし今日は数日前の仕事の収穫、出来、全てが完璧だったので、しつこく相手方の人達に追いかけられずに済んだし、ゆっくり過ごそうと決めていました。テレビでやっている少し前の映画を見て、少し貴女のページの若い頃を読み返してみようかと思ったけれど、貴女に手を伸ばす前に、そのページに書いてあるだろう事を改めてあまり思い返したくなくて、やっぱり手を引っ込めてしまいました。
 夕方頃にお腹がすいてきたので私は、何を思ったか、マチに電話を掛けました。そう、まさにあのマチ!旅団に入った直後、(私には珍しく)大喧嘩?をしたあのマチです。昼頃に、その頃の私が書いた日記を見るのが嫌で、貴女を開く事を拒否した私が、数時間後に彼女をご飯に誘うために電話を掛けたのです。あの喧嘩も今思えば私があまりにも弱かったから出来たようなもので、すっかり昔の面影が無くなってしまうくらい経験に鍛えられた私(・・・だと思いたいのだけれど)にとっては、本当にただただあの頃は情けなかったと恥ずかしい気持ちに思わず滅入ってしまうくらいのものでしかありません。その頃の私の書いた貴女宛ての文なんて、ああ破り捨ててしまいたい・・・!と思ったけれど、それも私の軌跡なのだからやはりやめておきます。私は何時か貴女をマチに紹介します。でも、その時は今でない。今見せてしまえるほど、やはり私も強く無いのです。腕相撲で一回でも勝てたら、その時は紹介しようと思います。その時まで、マチが一体どんな人か、どうぞ思う存分想像していてください。マチはね、とても短気ですぐ怒る。私が怪我したら喧嘩を吹っかけてくれるし、痛くないと聞いていた念糸縫合もとても痛くします。でも、あんたがこれ以上怪我なんかしないようにお灸だよと彼女は言うから、彼女が本当はどれだけ優しいかをきっと貴女も察してくれる筈。だから私、マチと今こういう関係になれた事を感謝しているの。
 さて、私がお酒を飲もうと誘うと、マチは二つ返事で了承してくれたので、そのまま適当に待ち合わせをしてご飯を二人一緒に食べました。私はお酒を大いに飲んで、マチはそんな私の様子をみてあんたそんな飲む子だっけなんて言って笑っていましたが、そういう彼女こそお酒で少しいい気分になっていたのです。私達はそれから夜も更ける頃までそこでお酒を飲んでいましたが、いい気持ちになって本当に様々な話をしました。私が旅団に入った当初の話も沢山しました。マチは私との喧嘩を覚えていたけれど、それを喧嘩とは言わずに叱咤激励だと笑いました。成る程と私は妙に大きく納得しました。なので、これからはあの喧嘩のことを叱咤激励と書こうと思います。マチは私の事はなよなよっとしていてヒソカの次くらいに嫌いだった、でも今あんたは大分強くなって、何回かあたしの危機も救ってくれて、本当にあんたは変わったと言ってくれました。私も、最初マチはきつい言い方をして、男勝りで、勝気で、高飛車で怖い人だと思っていたけれど、もうそんな事は一度足りとも思わなくなってしまったと言い返しました。男勝りという所を除いて、とぽそりと呟くとマチは放っておいてくれとまたお酒をたくさん飲みました。ヒソカの話もしました。ヒソカはマチを気に入っているけれど、マチは麻疹が出るといって聞きません。二人がくっついたらちょっと素敵だと思うよ。マチには言えないので貴女に言っておきます。(あ、マチにシェリーを見せようとさっき言ったばかりだったっけ)
 大分お酒も回り、夜も更けた頃、少しだけ好きな人の話もしましたが、その時の空気はまるでタールのようにしつこく、重く、喉につっかかりむせ返るようで、マチも私も言明は避けました。二人とも遠まわしに、遠い出来事を言おうとするので全く要領を得なかったけれど、マチにも思うところはあるみたい。でも、ヒソカじゃないみたい。その時に思わず私はマチが何処か男と一緒に消えてしまったら、寂しくって死んでしまうと泣いてしまいました。マチは呆れた顔で私を見、グラスの中身を見、誰も遠くへなんか行かないよと言ってくれたけれど、私は嗚咽さえ漏らして真剣に泣きました。途中からマチの手が私の頭を擦り、背中を擦り、そうやってようやく私は落ち着く事が出来ました。マチはあんたは泣き虫だから、あたしが叱るまで絶対泣き止まないんだとやはり独り言のように漏らしましたが、それはきっとマチにも言える事で、私はマチの中でそんな立場になれたことをとても誇りに思っています。マチは強くて泣かないけれど、私が泣くことでマチの涙腺の中の塩水を精一杯流してあげるのです。私の泣き顔をおかしいと笑った彼女を見て、私はそういった役目が課せられているという事を強く認識しました。これは絶対に、間違いない話なのです。
 お店がしまるというので私達は次第に取り戻した口数と一緒に道を二人で歩きました。その時の月の美しさと、星の微かな光のコントラスト程切ないものはありませんでした。そのまま私はマチの部屋に転がりこみ、二人で珍しくごろごろと話しをしながらベッドの上に横になりました。その時にした話なんてもう大分お酒が回って何が何だかわからない、頭の理性のボーダーを越えた頃合だったからもう全部忘れてしまったけれど、大分話してすっきりしたという事は今感じています。きっと本心を話しあって、それに疲れてしまってその後ぐっすりと昼まで寝てしまっただからだと思う。昼起きたらマチの顔も私の顔もぱんぱんに膨れ上がっていて、これはダメだと二人で大笑いしました。マチはもっと此処にいたらと言ってくれたけれど、私はこれ以上お邪魔するわけにはといってマチの部屋を引き上げました。帰り際に昨日が丁度私が旅団に入って三年目だと言うと、マチは知ってたよと頷きました。そして、だからあたしに電話を掛けてきたのだと思っていたですって。何もかもお見通しだなあと思っていたら、知ってた?そして今日があの叱咤激励記念日さと追い討ちを掛けられました。気をつけて帰んな!それとも今から記念に何か叱咤しようか?と笑う彼女にやはり私は当分勝てそうに、無い。昨日はそういう、素敵な一日でした。この日を彼女と共に過ごし、そして将来に残す事が出来て、私は本当に幸せ者。