*萩尾望都「11人いる!」パロ



「できます」





は、ふたなりである。
もう一度言おう。ふたなりである。
詳しく記述するとすれば、彼女は二つの生殖器を有し、乳房を持つ両性具有者である。
緑間真太郎と高尾和成が彼女の事情を知ったのは、あれは確か彼らが部活に行く前に、男子トイレに入った時の事だった。そこで彼らが見たものは、男性用小便器の前に立ち、おもむろにスカートを上げボクサーパンツからイチモツを取り出す女の姿だった。その衝撃たるや、かの緑間真太郎の口から「ヒッ」という女のような声が出るほどで、横に控えていた高尾和成の方は約16年生きてきた人生の中で一番大きな声を張り上げ絶叫した。

「うわあああああ!!!!!!!」
「何をやってるのだお前は!!!!!!!!!!!!」
「え?何って…見たらわかるでしょ、おしっこだよおしっこ」
「いや!!!!だから!!!!!お前は何を!!!!」
「おしっこだってば」
「は…はあぁ!?えっ、ちょ、さん…はぁぁ!?」

目を白黒させる二人を前に、彼女はしゃあしゃあと小便を済ませ(二つ以上の意味で)、「説明するよ」と言って、まるで「じゃあこれからパソコンの使い方を教えてあげます」とでも言うのと同じようににっこり笑ってみせた。とは言え緑間真太郎と高尾和成の動揺はそう簡単に静まるものではない。確かに、校則違反である化粧にマニキュアをした、どこからどうみても「女」である彼女の股には、ペニスがついていたのである。


わたし、いや、ぼくの性は未決定なのだ。
はこれまで何千回と行って来たのであろう、水に流れるようにそんな摩訶不思議な現象について説明をしてみせた。

「わたしね、生まれつき性が未決定なの。で、これから20歳くらいまでの間に私は自分の意思で男になるか女になるかをほぼ自由に決められるっていう、不思議家系の一人娘なんだよね、わたし。親は男になってほしいみたいなんだけど、わたしね、ずーっと親と仲がよくなくてさぁ。中学生の時はずっと女になろう、女になろうと念じ続けて来たせいですっかりちんこ小さくなるしおっぱいは出て来るしで、すっかり女らしくなっちゃったからさぁ、高校は女として入学したんだよねー。一応女物の服の方が股にちんこついてても隠せるし、顔も女顔なもんで、都合良くて。でも最近になって、男になるのもいいかなぁなんて考え出して、おっぱいじゃなくてちんこ育ててるから、おっぱいしぼんで来ちゃったし生理も遅れたり少なくなったりしてきてるんだー。大学を期に男に変えよっかなーなんて。女って化粧だの生理だのブラジャーだの面倒くさいじゃん?あっそうだ、どうせだし、男の事情とか聞かせてよ。どう?男?やっぱり快適?」
「い、いや、なに言って…そんなの急に言われたって、し、信じられねーよ…」

そう呟く高尾は完全に我を失っている。そしてその隣の緑間は、頭の中で「おっぱいじゃなくてちんこそだててる」という衝撃的な言葉を何度も反芻しているのだった。
その時、突如は名案ひらめいたりと気色ばんだ。

「あ!じゃあいいよ、ちんこ触る?女のアレは何となく触られたくないし高尾くんたちにはきっと毒だと思うんだけど、ちんことかおっぱいとか、外に飛び出して付いてるものならいーよ!どうぞ!」

そう言って、ごそごそと紺色のボクサーパンツの前からイチモツを再び引き出そうとするを、高尾と緑間は慌てて制した。そしてその拍子に、このという女がしっかりと男物のボクサーパンツを履いており、もっこりと男よろしくふくらんでいる部分がある事を確認してしまい、思わず目を覆いたくなったのは言うまでもない。

「いっ、いや!!出さなくていい、出さなくていいから!頼む!ソレをしまってくれぇっ…!」
「うわ、どうしたの緑間くん?泣いてるの?」
「泣きたくもなるのだよ!うわ、触るな…!」

は自分の制服の裾を持ち上げて見せ、ブラジャーのついた小さなふくらみを少し見せると同時に、自らの股間を指差してみせた。確かにこれは普通の女子には出来ない。そうでなくとも親も泣くに決まっている。

「ほれ、こっちがおっぱい、こっちがちんこ」
「うわ、マジだ…マジで女の子の身体にちんこついてる…」
「っこの、ふしだらにも程があるのだよ!!ひっこめろ!!」

あまりにも緑間が大声を出すものだから、人が近寄ってくる気配がした。二人は試合中ですら見せない程の息の合った動作でを個室へ放り込み、居ずまいを正した。男子トイレの様子を見に来た教師にしどろもどろになりながら言い訳を話したが(「高尾がふざけてきただけです」と言うと、教師はすぐに納得し、「高尾、静かにしろ!」と高尾だけを叱り飛ばした。高尾は心の中で泣いた)、二人の頭の中はたった今見聞きした、にわかには信じ難い、身体の神秘の事について頭がいっぱいだった。
教師に謂れの無い叱責を受ける中で高尾は、この代償に、すぐそこの個室で息を潜めているにどんな質問を投げかけようか足りない頭で考えていた。そうだ、とりあえず射精は出来るのかを聞いてみよう。