タツヤ。そこに座りなさい。あなた、何て顔してるの。いいから、早く座りなさい。そう。え、パパ?パパは今スーパーストアに買い物に行ってもらってるわ。しばらく家には帰ってこないと思うけど…パパに何か用事でも?いいの?…それじゃあいいかしら、タツヤ。これから少しママとお話しましょう。とても、大事な話よ。ママは、あなたにこれを聞いてほしいの。さあ、これはお茶よ。熱いからゆっくり気をつけて飲みなさい。

 ねえタツヤ、ママがパパと再婚して三年が経つけれど、ママはタツヤととても良い関係を気付けてきたと思ってるわ。タツヤはいつもママを助けてくれるし、の面倒を見てくれるし。ママとはタツヤにとって余所者なのに、タツヤは全くそのような事を気にするそぶりを見せなかったわね。実はね、本当に最初の頃なんだけれど、パパとママのお互い子供が丁度同じくらいの年で、思春期で、とても難しい時期に結婚してしまう事になってしまったから、絶対に子供から反発されるし、幸せな家庭をつくるにはとても長い時間がかかるって思って、覚悟していたのよ。でも、そのような心配は全くの杞憂だった。何故だかわかる?それはあなたが、本当にこの家のために尽くしてくれたから。タツヤは、この元々はバラバラだった二つの家族が一つになって上手くいくように、色々と動いてくれたわね。こちらから何か頼んだわけでもないのに、タツヤは本当によくやってくれたわ。タツヤのおかげで家庭が明るくなった。が会話に入り辛そうにしていたら、あなたは必ず彼女を迎え入れてあげてくれたりして…考えていた以上に、氷室の家は円満で、笑顔に満ちた家になったわ。ねえタツヤ、覚えてる?パパとも最初は全然仲良くなれなかったわね。あの時、あんまりにもがぐずぐず拗ねてしまって、パパに失礼な態度を取ったり、酷い言葉を言ったりして、家庭の空気がどんどん悪くなっていって…ママは正直もうだめかと思っていたのよ。でも、今はどう?とパパは本当の親子みたいに仲良くなったわ!ママはこんな未来、想像もしていなかったわ。どれもこれも、タツヤのおかげよ。タツヤが、この家にを引き入れてくれたから。ママ、あなたのそういう所に、とっても感謝しているの……タツヤがいなければ、パパとママもうまくいっていなかったかもしれないもの。今なんて、ったら、タツヤ無しでは考えられないってくらい、あなたになついてしまって。ママは少し寂しいくらいなのよ。ああ、タツヤ。本当にあなたは、天使のような子だわ。ママとタツヤは血はつながっていなくても、ママはあなたのことを本当の子供だと思っているし、タツヤを誇りに、自慢に思うわ。ハンサムで、頭もよくて、優しくて、バスケが大好きなタツヤのこと、パパとママは本当に、心から愛しているのよ。あらタツヤ、どうしたの、俯いて。ちゃんとママの目を見て。

 タツヤ?今回は、……今回、あなたは自分のやったこと、ちゃんと理解してる?

 ………。

 ……そう、何も言わないのね。

 ねえ、タツヤ。お隣のウィル、判るでしょう?そう、ウィリアム・ディクソン。たまに通学路で会うでしょう?確かウィルには、4つ離れた妹、ダニーが居るわね。今、中学3年生の。ウィルは、もう高校3年生だったかしらね。ねえ、考えてみて欲しいの。隣のウィルが、ダニーと手をつないで歩いているところを見たことある?気付けば家の中でも外でも四六始終手をつないで一緒にいたり、家の前でどちらかが帰って来るのをずっと待っていて、おかえりのキスを唇にしたり、休みの日は必ず二人で出かけて夜遅くまで帰ってこなかったり…。そんなことを"兄妹"としている人が、タツヤの学校のお友達の中で居る?そんな話、聞いたことある?または、こう考えてもみて。家の周りでそういう事をしている若い男女が、実は兄妹という関係で、両親と一緒に一つ屋根の下に住んでいる。そんな家庭が近所にあったら、タツヤはどう思う?その家についていい感情を抱くかしら?その家の周りに住んでいて、その二人をよく見る近所の人たちは、それについてどう思うかしら?

 あのね、タツヤ。それはとても、とてもとても、奇妙なことなの。普通の兄妹は、そんなことはしないのよ。

 ねえタツヤ、顔をあげて。ママの顔を見て。私たちは本当に心配しているの。パパも、ママも。なにか…なにか、…そうね、とても妙な事が二人の間で起こっているんじゃないかって。ウィルを見てたら、普通わかるでしょう?これくらいの年頃の兄妹は、そうそうべたべたしないし、恋人のようにキスをしたりしないのよ。タツヤとは、兄妹なのよ。血はつながっていないけれど、戸籍上では兄妹なの。兄妹っていうのはね、絶対"何か"があってはならないはずの関係なのよ。
 最初に、あの光景を見た時…正直言って、ママは気持ち悪いと思ったし、ショックで倒れそうになったわ。パパなんて、あの後大変だったのよ。いきなり泣いたり、怒ったりして、ものに当たって。もともと浮き沈みの激しい人だったけれど、もっと酷くなったわ。ママも、あの光景を思い出すだけで、今でも身体が震えるわ。二人ともしばらく食事もまともに食べれなかった。二人で頭を抱えて、何時間も話し合ったわ…ずっとこれからどうしようって、路頭に迷って、悩み続けたわ。どうしたらいいか、パパとママも判らないの。ただ、どうしてあなた達があんな事をしていたのか…理解できないの。ただの遊びだったと判っているのよ、それでも…。パパなんて本当に落ち込んでしまって、今でも様子が変でしょう。あの人がとまともに喋っているところを、あれから見たことがある?タツヤ、ママとパパは、この幸せな家庭を作るまでに、血のにじむような努力をしたの。二人はお互い再婚だったけれど、そうして得た家庭は、本当にパパとママにとって大事なものだったの。タツヤともそう。自分たちの子供ですもの。本当に二人が、大事なの。二人にはこの家で幸せで居てほしいって、いつも願っているわ。だから、前みたいにすばらしい家を家族4人で作ることができたのよ。ママはそうやってようやく手に入れた幸せな家を、また失いたくないの…この家には、皆が笑顔でいれるような、暖かい家であり続けてほしいのよ。タツヤ。わかるでしょう?わかって、くれるでしょう?

 タツヤ。ここで約束して。絶対、これからは二度ととあのような事をしないって。此処で、ママに誓って。出来るわよね、タツヤ。

 ………。

 タツヤ?どうして何も言わないの?

 ………。

 なんて…なんて顔をしているの。ママが何かした?パパが何かした?何がそんなに気に入らないの!何でそんなにママをにらみつけるの!
 タツヤ、言って。じゃないとママ、あなたが何を考えているのかわからないわ。いつから、そんな怖い顔をするようになったの?何が、そんなに気に入らないの!

 ………。

 タッ…ああ、あら、電話が…パパからだわ。タツヤ、何勝手に席を立っているの。まだ話は終わってないわ、此処に居なさい。絶対に行ってはだめ。はい、もしもし、パパ。うん、うん。…そうよ。…ああ、そうなの。え?それは、その…大丈夫なの?だってあなた…そう。わかったわ。ええ。そうね。きっと、その方がいいわ。気をつけて。…タツヤ?どうしたの?そうよ、パパから。、今塾に勉強しに行ってるでしょう。パパが迎えに行くんですって。きっと大丈夫よね、晩ご飯も二人で食べて話をするって……タツヤ?どうしたの?怖い顔して。あ、何処へ行くのタツヤ。ねえ、ちょっと!