十月六日

 今日の夢は、変な夢だった。長い長い廊下を、私は一人で歩いている。誰も居ないし、この廊下が何処に続いているのかもわからない。しかし私はとにかく歩かねばならなかったので、そこを歩いていた次第である。おい、と声をかけるものがあったので振り返ると、火神くんだった。火神くんは一緒に私に並んで歩いていた。火神くんは、何処に行くの?私が尋ねると、火神くんはわかんね、と言った。滑稽だった。二人とも何故この廊下を歩いているのか判らないのだ。火神くんは私の手を無言で取って、掴んだ。私はびっくりして、火神くんの顔を見上げた。そういや、手、つないでいいか?と聞かれて、私は、てかもうつないでるじゃん…と憎まれ口を叩くので精一杯だった。すると火神くんは、私の指と指の間にその長い指を差し込んで、歩き出した。これって、恋人つなぎだ。どきどきと心臓が高鳴る。触れられたその場所から痺れるように発熱する。左手から火神くんが浸食してくるようだった。火神くんは何食わぬ顔で歩き続けている。ああ、これは長い長い廊下だ。黙って二人歩き続ける。このまま何処まで行くのだろう。こつこつと二人分の制靴の音がする。私はうつむいていた。ぴかぴかに磨き上げられたような茶色の制靴が右、左、と交互に下からにょきにょきと出て来ては私の身体を前へと運んで行く。その視界の端で、男の子らしい大きな黒い制靴が動いていた。
 しばらく歩いていると、私はふと手を引かれて立ち止まった。振り返ると、そこに居たのは火神くんではなく黒子くんだった。突如、繋がれた手を強い力でにぎられ、黒子くんの指が手の甲に食い込んで痛かった。あれ、黒子くん、火神くんは?私は彼に問いかけたが、彼は何も言わず、繋がれた手を冷たい目で見下ろし、私の手を握る力を更にこめた。黒子くんの力はどんどん強くなる。右手の骨がぎちぎちと軋み、血液が握りつぶされて熱くなる。指先に血が集まり紫色になるまでに、私はたまらずに大声を上げた。

 いたい、痛い痛いいたあい!黒子くん、離して!!!

 私は大声を上げ、そして……目が覚めた。長い間息を止めていた後みたいに、はあはあと私の肺は酸素をほしがった。心臓の音が耳元でうるさい。身体を起こすと、私の左手の甲には四つの赤い跡がついているのを見つけた。え、と思わず声が出た。しげしげとその跡を観察する。閉じたり開いたりすると、その痣の部分がかすかに痛んだ。何これ。私はしばし呆然とした後、ベッドから降り、トイレに行った。頭がまだぼんやりとしている。その時身体から変なにおいがした。何このにおい。
 何であんな夢を見たのだろう、途中まで心地よかったのに。そんな事を考えながら、用を足し、手を洗った。冷たい水が私の神経を刺すように刺激して、完全に覚醒させてくれる。ついでに冷たい水を顔にかけ、タオルで拭う。ああすっきりした、と私は顔を上げ、鏡に移る自分を見た。首筋に、二つほど小さくて赤い点が出来ていた。できものかな。もしかしたらにきびの出来る前段階かもしれない。私はリビングに向かい軟膏を塗った。


 今日は特に予定もないので、お昼ご飯を家で食べた後、電車で20分ほどの場所にある繁華街で色々買い物をすることにした。思い返せば、普段は制服だけで過ごしてしまっているのでよそ行きの服が無いのである。近々火神くんと出かけるという一大イベントが私には待っているので、その前準備ということで安いワンピースの一着でも、と街に繰り出した、というわけだ。あれ?私なんだか相当期待しているみたいじゃない?…そんな事を考えれば、いやでも夢のことを思い出す。夢で見た火神くんの指や手のひらの感触や、びりびりとしびれた私の左手のこと、火神くんの凛とした横顔、黒子くんの冷たい瞳、握りつぶされそうになった左手の甲、あれらの全てがごちゃまぜになって私の脳みそをかき乱した。何であんな変な夢を見たのだろう…私の馬鹿め。夢の後味を苦く噛み締めながら私はショップに入る。そして店員さんを適当に流して、ワンピースの吟味を始めた。そのうち、私は秋らしい暗い紫色の、シンプルなワンピースを見つけ、値段を確認して試着した。胸がちょっと出るし大分ミニスカートだけど、この季節だしきっと許されるだろう。冬も中に何か着れば十分着回せそうだ。私は即決して買い物をさっさと済ませた。帰りにソニープラザに立寄った後、何か面白い小説でも見つけてみようかと、その街で一番大きな本屋に向かった。そして、少しだけ後悔した。
 黒子くんが、本屋の小説のコーナーに居た。今朝見た夢のこともあって、私は何となく顔を合わせ辛い。部活のバッグを持ち、ジャージを来た黒子くんはきょとんとして、ビー玉のような瞳で私を不思議そうに見つめた。こんにちは。奇遇ですね、。黒子くんは挨拶した。そうだね、奇遇だね。どうしたんですか?お買い物ですか?ちらりと黒子くんは私のショッピングバッグを見た。私は首を縦に振った。
 ちょっと服を買ったんだ。
 いいですね。
 黒子くんは?
 僕は、部活帰りにちょっと新作のチェックをしてました。
 へえ。今日、火神くんは? それを尋ねると、黒子くんの笑みが少し深くなった。
 火神くんですか?気になります?
 え、いいや、別に。嘘です、からかってすみません。最近二人が仲いいもので、少しからかってみたくなりました。
 黒子くんでもそういう事するんだね。
 さんって僕を何かとてつもない変人だと勘違いしてませんか?僕だって冗談を言ったりします。
 そっか。
 火神くんは、今はまだ学校で練習していると思います。
 僕は少し気晴らしに本屋に来てみました。本当は練習しなくちゃいけないんですけど、最近調子が出ないので。
 でも黒子くん、すごい上手いって聞いたよ。
 え?それ、誰からですか?みかちゃん。前、バスケ部の試合見に行ったんだって。みかちゃんって、バスケ部の土田先輩って人の彼女なんだ。
 ああ、そうなんですか。それは知らなかった。ああそうだ、、これからちょっと時間ありますか?こんな所で立ち話しも何ですから、少し一緒にお茶でも飲みませんか。

 あ、うん、いいよ。私は黒子くんに流され、小さな喫茶店に入った。黒子くんに誘導され、私はあっという間に流されるようにして喫茶店のテーブルについていた。先ほどからさりげなく下の名前を呼ばれ、知っていたのかと驚く暇も私にはなかった。彼に名前を呼ばれ慣れてないせいで、彼が私の名前を呼ぶたびになんだかそわそわと変な感じがする。
 黒子くんって…したの名前、何て言うんだっけ?その質問は、聞けないままに飲み込んでしまった。
 あ、。バタースコッチアイスがありますよ。黒子くんはメニューを開き、そう言った。え?と自分のメニューに目を走らせると、それはあった。ブラウニーと書いてある写真の横に、"暖かいお店特製ブラウニーに、冷たいバタースコッチアイスクリームが乗せてあります" と説明書きがあった。黒子くんは微笑んだ。よかったですね。前食べそびれていましたからね。
 え、ああ、うん…?そうだったっけ?一体なんのことだろう。矢継ぎ早に繰り出された、黒子くんのコーヒーですか、紅茶ですか?という質問に、反射的に紅茶と答えてしまった。すると黒子くんはさっさと店員さんを呼んで、ブラウニー二つとコーヒー紅茶一つずつで、と注文を済ませてしまった。何となく今日の黒子くんは強引な気がする。最近仲良くなったばっかりでこんな事を言うのも変だが、何というか、いつもの黒子くんらしくない。いやまあ、ブラウニー食べたかったからいいんだけどさ。
 そのあと、私たちは本の話で盛り上がった。本の話題で話が弾んだのは初めてだった。あの小説の作者は他にもサイコミステリー、ホラー、更に暖かいヒューマンドラマ等等色んなジャンルの小説を書いていて、そのどれもが売れ映画も大ヒットしているのだそうだ。全米が泣いたーなんて一言をつけられると、一気に見たくなくなるんですけど、あの原作に付くと確かに、と唸らざるを得ません。彼は世界一のヒットメーカーなんです。黒子くんは嬉しそうにそう言った。そして、今まで公開された、彼原作の映画のシリーズも家にそろえてあるから今度家に来ませんか。と私を誘った。どうしようかな、と私は一瞬迷った。
 次の火曜、祝日ですよね?学校の部活も、休みなんですよ。
 あ、その日は…。

 申し訳なさそうに口を開くと、黒子くんが何かあるんですか?と透き通った瞳で尋ねてきた。

 その日、約束があるんだ。
 そうなんですか。それでは仕方ないですね。それじゃあ次の機会に。部活がほぼ毎日あるので、少し先になるかもしれませんが…。
 本当にごめんね、折角誘ってくれたのに。黒子くんはいえいえと言って笑ってみせた。残念ですが、仕方ありません。

 その後はすぐに帰って、セイバーと遊んだ。マンションの前でむしってきた雑草をセイバーに向かって振ってみると、彼女は興味深そうに近寄って、前足で捕まえようと何度も草を追いかけた。セイバーはにゃんにゃん、とたまに鳴いて、それがあまりにも可愛いあまり、つい途中でセイバーを抱き上げようと手を出すと思い切りひっかかれて血が出た。え、何これひどい。腹が立ったのでセイバーにご飯を上げる時少し意地悪して皿を上げたり下げたりしてやった。皿に合わせてセイバーの顔が上がったり下がったりした。ざまあみろ。
 家に戻ると弟に引っ掻き傷を見られて、どんくさ、と一言吐き捨てられた。言っとくが、姉ちゃんはお前の代わりに世話してやったんだぞ。
 寝る直前、火神くんからメールがあった。火曜日、まだ大丈夫か?11時に噴水前でもいいか?あと飯、食いに行きたいところあるか?と、質問だらけのメールだった。約束を忘れていないか伺うような口ぶりだ。また夢の内容を思い出して、私は苦笑した。自分の夢に怯えて、私は実は相当暇で、物好きなのかもしれない。大丈夫だよ。と私は自分に言い聞かせる意味も込めてそう返事した。ご飯についてはまた追々連絡するねー火神くんもなんか考えといて。その一文を加えたあと、ベッドに寝転がり思い切り伸びをした。すると、何かが手にあたった。何だろう、とベッドのヘッドボードを見ると、時計の横に黒子くんの貸してくれた本があった。ああ、これ明日返さないと。私は今朝の夢の中で物騒なことをしてくれたクラスメイトの顔を思い浮かべて苦笑した。この本は本当によかった、後で自分でも買おう。本の内容を思い返すともう一度あの感動がよみがえって来て、最後に一度自分の気に入ったところだけ読み返すことにした。ぱちんとベッドの枕元の、目覚まし時計の横に置いてある間接照明を点け、私は部屋の電気を消した。今日はもう遅いから、最後の章だけでも、もう一回読もうかな…と、ベッドの上で本を広げると、長めの髪が本のページにかかって邪魔になったので、側にあったおニューのスモークピンクのシュシュで髪を一つにまとめあげ、私は読み始めた。まもなく私は本の世界に没頭し、そして、何時眠りについたか覚えていない。



























十月六日

 僕は、何か人の囁く声と、苦しげにうめく声、そして衣擦れの音で目を覚ました。誰かがこの部屋に居る。僕ははっとしました。頭が急に覚醒して、どくどくと心臓がいやな音を立てました。すぐ側の置き時計で時間を確認すると、まだ午前4時半であることがわかりました。耳をすませると、僕のすぐそばで、何か断続的にする水の音と、はーはーと低い男の息づかいと、うー、と呻く湿った女の声がします。何の音だ、と首だけを動かして辺りを見回すと、すぐそこに何か大きなものが蠢いていました。僕はあ、と声をあげそうになりました。僕の部屋に、見慣れたベッドがもう一つ、向かいの壁に置かれていて、その上で何か大きなものが動いていたのです。そのおかげで、今はっきりと認識できました。これは、夢です。自分で作り出したまぼろしに、ふたたび僕は迷い込んだのです。危険は無いと確信するや、僕は立ち上がりました。その大きな影は僕のことなど気にせずに動き続けます。一体それが何をしているのか、僕にいやな予感が走りました。しかし、僕はそれを見て確かめなければならないという気持ちが急にあふれてきたのです。僕は上から垂れるひもを引っぱりました。
 予感は当たりました。音もなくついた電気の下で、と火神くんが裸でくっついていました。僕のベッドの上で。彼らには僕が見えないどころか、電気がついた事も気付かないようで、全く僕を気にもとめずに行為を続行しました。は火神くんの大きな筋肉質の身体の下で、苦しそうな声をあげていました。火神くんはゆっくりと腰を動かし、は彼の手によってベッドに縫い付けられていました。今しがた、僕が寝転がっていた、僕のベッドに。ぼくの、べっどに。火神くんが身体を動かすたびに、二人の間から耳をふさぎたくなるような音がしました。彼女が火神くんの下で、声を殺して耐えている様子を見ていると、僕はせりあがるものがあり、身体をくの字に折り曲げ口を抑えました。が、間に合いませんでした。昨晩の夕食が僕の口から茶色くなって飛び出てきてしまいました。
 火神くんは荒い息づかいで、の手を握りしめ、確かに僕の使っている青色の掛け布団が掛けられたベッドに押さえつけていました。今の涙がしみ込んだのは、確かに僕の使っている枕です。くらくらしました。どうしてこんな所で。二人は苦しそうな、それでいて何処か幸せそうな顔で、ひたすらにお互いの身体をむさぼっていました。いやだ。僕は首を振りました。やめて。僕はぼろぼろと泣き出しました。やめて。僕の身体は凍り付いたようにうごきませんでした。やめろ、やめろ、やめろ、やめろ…!!!こんなに思ってるのに喉は吐瀉物でつっかえ声になりませんでした。手がぶるぶると震えました。火神くんの動きが激しくなり、ぬちゃぬちゃという音が大きくなって、の声が甲高くなった所でようやく、僕は動く事が出来ました。この夢を、消し去りたい。もっと、幸せな夢が見たい。消えろ!そう願えば、この世界は僕の思った通りになる。その一番大事なことを、僕は思い出す事が出来たのです。


 だから、僕は"そう"願いました。気が付けば、僕は火神くんの位置にいました。僕の生殖器は彼女の中に入っていました。僕は裸で、を下に組しいていました。僕はの顔を確認したあと、辺りを見回しました。火神くんはいませんでした。それはいつも通りの、ベッドが一つしかない、正常な、いつも通りの自分の部屋でした。置き時計が置いてあり、時間は5時を示していました。僕はを見下ろしました。は、どうしたの、と言って僕の頬に手を伸ばしました。僕はその手を握りしめ、そのままベッドに強く押し付けました。どうしたの、テツヤ。そのかすれた声で熱い下半身がずくずくとうずきました。その結合している部分をしげしげと見つめると、僕の生殖器はゴムをつけていませんでした。これは火神くんもつけていなかったという事か、と思うと、一人勝手に嫉妬の炎で身が熱くなりました。しかし我に返り、これは本当に夢なのだと何度も何度も確かめれば、何とも悲しい、空しい気持ちになって、そのまま萎えてしまいそうになりました。
 そうです、これはまぎれもない夢です。が涙を目にためて火神くんを誘っていても、このむせかえるような匂いがいくら本物じみていても、僕のペニスがどれだけ気持ちよくなっても、全部は夢です。ですから、好き勝手に、めちゃくちゃにしてしまってもいいのです。腰を動かすと、が安心したように息を吐き出しました。。腰を動かしながら何度も名前を呼びました。熱くぬめぬめとしたものが僕のペニスを包んで放しませんでした。結合部から僕はとろけてしまいそうでした。僕の右手での手をにぎりしめ、左手で彼女の腰を抱えて、何度も僕は無我夢中でペニスを彼女の中で擦りました。は嬌声でそれに答えてくれました。僕の名前を、呼んで。僕が懇願すると、彼女はテツヤ、と呼んでくれました。僕は嬉しくなって、苦しくなって、果てる瞬間にがぶりと彼女の肩口にかみつきました。

 そこで、目が覚めました。じりじりじり。こんなに目覚まし時計の音っていうものは大きかったでしょうか。下半身に広がる不快な感触を、僕はもう知っています。僕は手早くズボンと下着を脱ぐと、ベッド脇のティッシュを数枚取り拭いました。下着の方も、丁寧に精液を拭いました。二回目ともなると、彼女に対する罪悪感は格段にうすくなりました。自分にほとほと嫌気がさすのは変わりませんが。僕は、その丸めたティッシュを捨てようと、ゴミ箱を探しました。そして、ベッドから少し離れた位置の床に、茶色いシミがついているのに気がつきました。はっとして僕は洗面所に向かいました。鏡を見て愕然としました。のど元から腹の少し上まで、僕の水色のパジャマは茶色い何かで汚されていました。

 僕は、身体の上から下まで、いやなにおいがしました。

 今日ほど部活に行きたくない日はなかったでしょう。
 しかし時間は残酷にも、部活の開始時刻に刻々と近づいていきます。僕は生まれて初めて、部活を休む理由をあれこれ考えました。しかし最近の自分の不調を鑑みれば、今日の練習には当然出席しなければいけません。そこで、学校へ向かう道すがら、火神くんに今日は何も感づかれないように出来るだけ平常心でいよう、と心に誓いました。もう正直言って彼にどんな顔をして会えばいいのか判りません。何か悩みでもあるのか、話してみろ、と迫られて、こんな事で悩んでいると話すなんてもってのほかです。その結果、僕はいつも通り振る舞い、気付かれないように出来るだけ彼との接触を減らす必要があるのでした。部活は相変わらず調子が悪かったですが、火神くんを含め皆にパスを回す事は出来ました。ですが、やはり火神くんと顔を合わせて一対一で話すのは難しいように思えました。今は彼の顔を見るだけで逃げ出したくなります。結局午前練が終わったあと、バレーボール部が来るはずだったのが、急にバレー部が休みになったとかで、皆で引き続き体育館に残って練習することが出来ました。火神くんはカントクと何か話しながら、新しいメニューを組んでいました。勿論僕も、先輩と一緒に練習しました。シュートは最後まで入りませんでした。
 どろどろに疲れた後、僕はまっすぐ家に帰りました。火神くんにいつものように寄り道を誘われましたが、断りました。あれだけ好きだった白いシェーキも、彼と一緒だととても飲める気分になりません。僕は帰ってすぐに風呂に入って、母親が用意してくれた夕食を食べました。あまりお腹はすいていませんでしたから、だいぶ残してしまいました。僕はそのまますぐに部屋に戻って、電気も消さずに酸っぱいにおいのするベッドにもぐりこみました。目をつむれば、今日の夢がまざまざとまぶたの裏によみがえりました。あれを思い出すだけで、僕は甘いような、切ないような、妙な気分に浸ることができました。あの時のの声は高くて、かすれていて、ひどく性的でした。僕をうとりとだます要素を全部、兼ね備えていました。やわらかい胸も、腕も、お腹も、腰も、太ももも、その奥も。まるで見て来たかのように、すべて思い出せます。それらを思い出しながら、僕はトランクスに手をつっこみ、その後はそのまま、自分の好きなように、したいようにしました。一等、気持ちよく僕は射精しました。全部終わったあと、手の中でべっとりとついたそれの匂いを、僕は嗅ぎました。夢の中のあれと、そっくりそのまま同じでした。そしてすぐに気分が悪くなって、すぐ洗面台で洗い流してしまいました。鏡を通して見る自分は、幽霊のように青白い顔をしていました。目だけらんらんと輝いて、何かの中毒者の顔のようでした。頭が痛んで、何故か、口の中で血の味がしました。僕はベッドに戻ると、続きに没頭しました。