十月三日

 今日は学校で誰かとお喋りしながら掃除をする夢を見た。と言ってしまえば暢気なものだが、その夢は掃除が永遠に終わらないという、なんとも恐ろしい夢だった。いくら綺麗にしても、部屋がどんどん大きくなるので掃除がまるで終わらないのだ。掃除をした端から、部屋が大きくなっていく。明らかにその部屋は現実ではあり得ないのに、夢の中の私はそれを平然と受け入れて掃除を続けるのだ。夢というやつはそういう理不尽なものだ。掃除をひたすら続け、部屋を拡大させていくうりに、私は最終的には体育館のような広い場所をたった二人で掃除するハメになった。誰と掃除したのかは覚えてない。ただ、何かその人と話しながら、その永遠に終わらない掃除をしていた夢だった。どんな話だったかな。リスニングのテストの話をしていた気がする。確かにあの30点中18点という数字は、現実の私に衝撃を与えたから、夢に出て来ても仕方ないかもしれない。今回のリスニングのテスト、本当に自信あったんだけどなぁ…。平均点が24点と高かったのも輪に掛けてショックだった。そう、確かその人も私と同じくらいの点数だと言っていたけど、何か私が冗談を言ったら、笑いながら私の肩を軽く叩いてきた。そして夢から覚める直前、その人はおすすめの本を貸してあげると約束してくれた。私は全然本は読まないのだけれど、私はその人に気を遣ってその申し出を受けた気がする。…まあ、この話はどうでもいいや。

 学校へ行く途中で、なんと鳥のフンをひっかけられた。手で触って確かめたら白いのと茶色いのが混ざり合っていたから、あれは確実に鳥のフンだ。あいつまじで許さない。学校へついた瞬間に手洗いに直行し、髪を必死に洗った。シャンプーは持ってなかったので、水洗いで我慢するしかなかった。教室について早々、火神くんにその事を話すと、彼はひーひー大声で笑ったあとに、私の頭に制汗剤をふりかけてきた。あいつまじで許さない。しかも、臭いから近寄らないでって言ったのに、彼はチェックしてやるとか何とか言って、私の頭の匂いを嗅いだ。頭に鼻を近づけられ、全然におわないし大丈夫、と言ってくれたけれど、私の心臓は大丈夫じゃなかった。
 何であの時、火神くんにどきどきしたんだろう。…いや、忘れよう、このことは。うん、その方がいい…。
 今日は数学でちょっと難しい問題を当てられたけれど、前日にちゃんと予習をした私に死角はなかった。今回の数学の点数を受けて私も反省したのだ。前までの私だと思ってもらっちゃ困る。ふふん。バレー部員が復帰してくれたので、掃除も滞りなく終わった。今日はみかちゃんとソニープラザで買い物して帰った。めちゃくちゃかわいいスケジュール帳を見つけてしまったので、それを衝動買いしてしまった。さて、新しいスケジュール帳も買ったことだし、新しい気持ちで新学期(もう一ヶ月過ぎたけど)をすごそうと思う。
 親に鳥のフンの事を話すと、そんなもの、別にいいじゃない、洗えば取れるんだからと鼻で笑われた。ついこの前、洗いたての車にフンひっかけられて、鳥に怒り狂ってたのは何処の誰だ。しかしその母親が今日、買い物に言ったついでにかわいいシュシュを買ってきてくれてたので明日から学校で使う事にする。上品なスモークピンクの布に、おそらくガラスで出来た、ごろっとした宝石のようなものが付けられている。私は一目で気に入った。私の趣味を完全に理解してくれている親に厳かに感謝して受け取る。もう二度と鳥にひっかけられないように、次からはあの並木道は気をつけよう。











十月三日

 今日も寝覚めが悪かったです。じりじりじりという目覚まし時計の音が夢の中にまで響いてきたのを何故かはっきりと覚えています。変な夢を見ました。さんと体育館で話す夢でした。僕は体育館で、いつものようにバスケットボールを追いかけていました。すると、何故かさんが体育館の入り口に来ているのです。彼女はやがて僕に気付き、僕に手を振りました。何をしてるんですか?僕が問いかけると、此処を掃除してるけど終わらないの、とさんは言いました。僕はボールを捨て、そばに落ちていた箒を取り彼女の元に走りよりました。夢特有のご都合主義ですね。そのまま二人で何か話しながら、色々体育館の中を練り歩きました。どんな内容だったかは思い出せません。ただ、夢の中だというのに、僕は甘くしびれるような感覚を楽しみました。夢の中のさんは何処か違いました。態度とか、そういうものが。そういえば、髪型が可愛いゴムで束ねられていたように思います。今日の髪型、かわいいですね。似合ってます。と夢の中の僕は大胆にもそう口にする事が出来ました。ああ、胸のうちがくすぐったい。あの感覚がまだ手に取るように身体の中に残っています。夢の中でも、さんと話す時は僕はひどい動悸がして、話す唇が震えました。なんとすばらしい感覚でしょう。僕は夢の中だと饒舌で、そして、すこし強引にすることが出来ました。さんは僕が何を言っても、楽しそうに目を細めて話してくれるのでした。僕は練習を続けなければならないのに、ずっとずっと彼女と話して、楽しくて…
 じりじりじりじりじり。
 金属音のようなけたたましい音のせいで、目が覚めてしまいました。もったいない。目覚まし時計を忌々しく睨みつけたあと、また目をつむり夢の続きを見ようと試みましたが、無理でした。
 朝練を終え教室に行くと、さんが頭を濡らして座っていました。学校に来る途中に鳥にフンをひっかけられ、髪を洗ったそうです。火神くんはそれを聞いて大笑いして、制汗剤を彼女の頭にかけていました。さんはきゃあきゃあと何か言いながら逃げていましたが、とても楽しそうでした。それを見ていると、いやなきもちになりました。そのあと、火神くんがさんの頭に鼻を寄せているのを見て、僕は何故だか見ていられなくなって目をそらしました。僕の鞄の中には彼女に貸してあげると約束した小説が入っていましたが、中々手渡せずにいました。
 掃除の後、彼女にそれを渡して上げようと思いましたが、彼女はとっくに帰ったあとでした。今日は僕は彼女と一言も話していません。夢の中ではあんなに話したんですけどね。現実はやはりうまくいきません。今日はちょっとでも、勇気を出して彼女に話しかければよかった。…と、帰り道、さんの話をする事が多くなった火神くんの横で、僕はいつもより少し強く後悔しました。