十月二日

 今日も長い夢を見た。学校の夢だ。誰かとぺちゃくちゃとお喋りして、先生に怒られる夢だった。誰と話してたんだっけなぁ。目覚めると同時に夢の内容を忘れてしまうので、これからは携帯のメモにでもちゃんと書き記してみよう。今日はとりあえず忘れてしまったので、明日から。ああ、眠い。全然最近眠れていない気がする。
 今日もいくつかテストが返却された。数学とリスニングの点数がかわいそうな事になっていた。私はいつも、こういうテスト返却時にはテストの点のことで火神くんをいじめるのを生業にしていたが、今日だけはそれはやめておいた。見よと言わんばかりに、火神くんがリスニングのテストをひらひらさせてきてむかついた。私は勝てない喧嘩はしないタイプなのだ。でもリスニングの天才火神くんは数学と日本史の点が足りなくて、補習を言い渡されていてちょっとすっきりした。かわいそうに。ぷぷぷ。実は私も点数だけで言えば、数学は彼と同じく補講行きスレスレなのだが、日々の小テストを頑張っていたのでそれはないそうだ。先生にちゃんと確認したから間違いない。神は努力する人間を救い賜るのだよ。お前何気に頭良いよな、と火神くんに言われたが、火神様程ではないです、と答えると肩をしばかれてしまった。思ったより手が大きくて力が強かったので、私は思わずよろめいた。火神くんには何故か笑われた。むかつく。
 アンラッキーなことに今日から一週間、私と同じ列に座っている人は放課後に掃除当番をする事になった。掃除当番は必ず5週間に一度回って来る。しかし今日はバレーボール部の練習試合だったせいで、私の列にたまたま集中して仲良く座っていた4人のバレーボール部員は掃除に参加出来なくなってしまった。いつも7人で手分けしてやっていた掃除を、3人でやるのはきつい。何しろ、教室、廊下、そして教室の斜め向かいにある家庭科準備室の三カ所を掃除しなければならないのだ。廊下はそうでもないが、1人1部屋は中々大変だ。放課後その3人でどうしようかとおろおろしていると、火神くんともう一人の男の子が手伝うと言ってきてくれた。その男の子とは喋ったことがなかったけれど、いざ話してみると物腰やわらかでとてもいい人だった。そういえば火神くんの後ろの席に座っているけれど、一回も話したことがなかったな。もう二学期も半ばで、本当に失礼なのは承知だけれど、彼は名前だけは知っていたというレベルのクラスメイトだった。私と黒子くんは家庭科準備室を担当した。二人でたまに話しながら部屋をてきぱきと掃除して、その日は帰った。

 家に帰ると弟が私が大事に置いておいたハーゲンダッツを勝手に食べていた。ちょっと泣いた。いい歳してアイスクリームの事でぐずぐずとだだをこねる私を、母親はかわいそうなものを見るような目で見た。私のアイスクリームを屠った張本人である弟は、テレビゲームに目線は釘付けのまま、あーはいはいごめんごめんと生意気な態度で謝るだけだ。人に謝る態度じゃないぞ!頭が高い!いずれにせよ、私のバタースコッチはもう帰って来ない。楽しみにしてたのになあ。





十月二日

 今回は、僕の目覚まし時計はしっかりと仕事してくれました。今日は朝から頭が痛みました。楽しい夢を見ていた気がするのですが…朝練の頃にはその痛みもすっかりどこかへ飛んでしまったので問題はないと思いますが、自分の身体の事ですので少し気持ち悪いです。今日は朝から、小金井先輩がけらけら笑いながら、火神くんの制靴に何処かで拾った蝉の抜け殻を入れていました。まだ蝉の抜け殻なんて残っていたんですね。朝練が終わったあと、何も知らない火神くんはその靴に足を突っ込みました。そしてすぐに、あれ?なんかくしゃくしゃする、と言って靴をぬぎました。靴下には無惨にも潰れた蝉の抜け殻がひっついていて、火神くんはものすごく大きな、それでいて女の子みたいな悲鳴を上げて尻餅をついていました。先輩たちは腹を抱えて床に転げ回っていました。僕も、火神くんの様子があまりにおかしくて笑ってしまいました。彼は何故だか僕が犯人だと思って僕を追いかけ回してきましたが、断じて僕は犯人ではありません。僕は無実です。
 今日は数学、日本史、国語、英語のリスニングのテストが帰ってきました。こう書いてしまっては僕が恣意的にそうしているかと思われそうですが、僕は今日もさんの点数を見てしまいました。僕の斜め前に座っているので、点数が見えやすいんです。僕は別に他人の点数を覗き見るなんて、そんな下賎な趣味は持ち合わせていませんから。本当です。見えてしまうだけなんです。ちょっと意識して見ているとは言え、彼女のそういう所を見たいわけではありません。昨日と違って今日は、彼女は火神くんの点数の事で彼と話そうとしませんでした。点数を見て僕は納得しました。数学、45点。リスニング、18点。リスニングは30点満点ですが、その二つは僕とどっこいどっこいですね。英語だって筆記は問題ないのに…。僕は思わず笑いそうになって、ひっそりと手で口を隠しました。火神くんは僕とさんに、満点のリスニングのテストをこれ見よがしに見せびらかしてきましたが、僕たち二人は相手をしませんでした。
 今日の放課後はバレーボール部員は掃除に参加出来ない事になっていたので、さん含む3人で広い部屋を掃除するのも大変かろうと、僕は掃除を手伝う事にしました。火神くんも何故か一緒についてきました。僕はさんと家庭科準備室を掃除することになりました。さんと掃除の間中何か喋ったのですが、緊張してあまり覚えていません。緊張のしすぎで、あんまり上手く話せなかった気がします。ただ、その会話の中でミステリー小説の話になり、最近読んで一番面白かった本を彼女に貸してあげることを約束した事だけは、頭にしっかりと焼き付いていました。明日早速彼女に本を持って行ってあげようと思います。