十月一日

 ああ、うるさい。
 私はけたたましい電子音のせいでひどく不快な気持ちになりながら体を起こした。
 この日、朝は何だかものすごくリアルな夢で目が覚めた。すごく長い夢を見てた気がするのだけれど、どんな夢だったか詳しくは思い出せない。学校へ行って誰かに会った気がするのだけれど…。なんだか目覚めがとても悪くて、それまで寝ていたはずなのに朝からひどく疲れた。
 学校へ行くと、昨日の中間テストが早速返された。となりの席の火神くんが英語で20点を取っていた。帰国子女とは何だったのか。彼は、今回は記述ばっかりだったから点が悪かったんだ、記号選択制だったら問題なかったんだと、何かの鉛筆を握りしめて意味の判らない言い訳を繰り返していた。皆笑っていた。放課後、体育館側を通りかかると、火神くんが、バスケのゴールに向かって信じられないほど高く飛び上がってゴールを決めているのを見た。がっしゃーん!とものすごい大きな音が体育館に響いて、バスケの上からぶら下がってるゴールポスト?っていうの?あの輪っかがぎしぎし軋んでいた。ダンクってやつだ。初めて見た。おおー、と声を上げると彼はこっちに気付いたようで、シャツで汗をぬぐいながら手を上げてくれた。火神くんってこういう時は格好いいなあ。馬鹿だけど。




十月一日

 今日は危うく寝坊しかけるところでした。目覚まし時計が、理由はわかりませんが時間通りに鳴ってくれなかったのです。おそらく、昨日時計を落とした時にくるってしまったのでしょう。僕はぼーっとする頭でしばらくベッドの上から動けませんでした。何だか長い夢を見ていた気がします。この気だるい感じに出来ればずっと浸っておきたいですが、そうも行きません。今日も学校と部活があります。
 早速、昨日の今日で英語のテストが返されました。僕は62点で、この点数だけ見れば良くもなく悪くもないですが、ただ、クラスの平均は65点だったので、やはり僕は悪い方なのでしょう。ただ、火神くんは20点だったらしいです。下を見て安心するのはよくない事だと判っていますが、やはり彼よりマシなこの点で満足する事にしました。どうやら彼の点数は記号と単語問題だけ正解した結果のようですね。彼の隣の席のさんが、彼と英語の点数の事で何やら言い合っていました。さんは自分の点数を言いませんでしたが、僕にはそれがちらりと見えてしまいました。87点。ちなみにそんな点数、僕はとったことがありません。さんは英語が得意なようでした。実に、火神くんの4倍の点数。バスケで負け試合だったら試合が終わる前から泣けてくるスコアです。火神くんを見ていると、帰国子女とは何だったのか、とよく思います。
 その日、部活をしているとさんが体育館入り口に立っているのが見えました。目が合った気がして、思わず手を小さく振りましたが、彼女が見ていたのは火神くんだったらしく、彼女は結局一度も僕に気付きませんでした。